東京地判平成30年5月25日(不動産売買契約を公序良俗違反で無効とした事例)が判例タイムズ1469号に掲載

私が,瀬戸和宏弁護士及び鈴木さとみ弁護士と一緒に担当した,東京地判平成30年5月25日が,判例タイムズNo.1469(2020年4月号)に掲載されました。

本事案は,判例タイムズで,「不動産売買契約が,著しく低廉な価格での取引であること,高齢で理解力が低下していた可能性のある者に対しその不合理性について十分な説明をしないまま締結させたものであることを理由として,暴利を得ようとしたものであり公序良俗に反して無効であるとされた事例」と紹介されているとおり,いわゆる公序良俗違反(暴利行為)を認めた裁判例であることは間違いありません。しかし,裁判例を読むだけだと分かり辛いポイントがいくつかありますので,以下で補足して説明したいと思います。

1 本件の事案は,特に悪質な,劇場型の原野商法による被害事案であったこと

本件事案は,裁判例を精読して頂くと分かりますが,いずれも,近時多発していた原野商法の被害に遭っていた1人暮らしの高齢者が,最後には,自宅まで「売買」の形で奪われようとしたという,特に悪質な劇場型の原野商法の事案であったものです。一般に暴利行為の判断は困難なケースが多いですが,本件では,当然に暴利行為が認められる「べき」事案であったと考えています。

2 原告2名は面識がなく,たまたま同時期に同様の被害に遭っていたことが発覚したこと

本件は,X1,X2という原告が2名出てくるのですが,この2方は全く面識がなく,たまたま同時期に,同じ相手方から,同様の被害に遭っていたことが発覚したことから,一緒に訴訟を提起したものです。なぜ,上記事実が発覚したかは,私が入っている研究会で,たまたま瀬戸弁護士らと最近の被害について意見交換したことがきっかけです。いわば偶然の賜物といえますが,このように同時期に,同様の被害に遭っていたことが,本件の悪質さを裁判所に理解させることができたと思います。そういう意味で,弁護士の横の繋がりというものの重要性を感じます。

3 弁護士費用のみを,不法行為に基づく損害賠償請求として認容したこと

一般に弁護士費用は,不法行為に基づく損害賠償請求が(例えば慰謝料等の名目で)認められるときに,その認容額の1割程度の範囲で請求が容れられることが通常とされています。他方で財産的損害については,その財産的損害が回復されることで,精神的損害も基本的に回復すると解されているので,例えば投資被害等の事案で慰謝料請求等が認められるのは稀であるとされています。

本件事案においては,登記名義の回復に関する請求が認められたことや,被告の行為が本来的に不法行為であることは明らかであることから,慰謝料請求については否定しつつ,弁護士費用のみを不法行為に基づく損害賠償請求として認容するという判断をしたものと思われます。このような判断があり得るということは今後の参考にもなると思います。

最後に少し感想を述べておきたいと思います。私も弁護士になって17年ほどになりますが,この事件はその中でも,ワースト5には入る,特に,悪質な事件でした。騙されて,お金を根こそぎ取られる事件は何件も担当してきましたが,最終的に終の棲家である自宅まで奪おうとするなど,絶対に許されるものではありません。結果として,正しい判決が下されたことは本当に良かったですし,私としても非常に思い入れの強い事件の1つとなりました。

今後も,依頼者のためによい判決が得られるよう,頑張っていきたいと思います。