オリンピック礼賛報道の危険性
- 2020.01.09
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1 東京オリンピックについて,重ねて述べておきたい。
令和も年末から年始に至って,テレビも新聞もいずこも東京オリンピックの報道だらけとなっている。NHKあたりがちょうちん報道や番組ばかりになるのは多少うなづけないではないが(もっとも,広くかつ強制的に視聴料を取り立てる制度的な仕組みからすれば到底許される話ではないが),マスコミ各社の紙面がオリンピック礼賛記事に溢れかえるのは,何とも情けない話である。これでは,戦前の報道管制のようなもの(いわゆる自主規制ならぬ自主礼賛へと形と方向を変えて)でもあるのか,と思いたくなる程である。これこそ,場面を変えれば現代的ファシズムの一変形態ではないのか,と考えたくもなろう。
2 毎日新聞にしても,当初の頃は東京でまたオリンピックを開催することに懐疑的な論調も目立ったが,どうも最近は風向きがすっかり変ってしまった。
但し,その様な一般的風潮の中で,毎日新聞が12月31日付の朝刊1面トップに「五輪整備 奪われた森」という見出で,JOCが東京五輪・パラリンピックに向けて新設された国立競技場や有明アリーナの売り文句である「和」のぬくもりを演出するため天井や壁に国産のスギやカラマツを使用して「環境に配慮した五輪」と耳に心地よいキャッチコピーを多用しながら,一方でその実態では,使い捨てのコンクリート型枠合板材31万枚のうち21万枚分の用材として,インドネシアやマレーシアの熱帯林が大量に伐採された,と報じた。しかもインドネシアの東カリマンタン州の伐採地の8割は,絶滅危惧種であるオラウータンの生息地に重なるという。
3 同新聞記事は,IOCもJOCも「持続可能な開発目標(SDGs)」を揚げているが,その理念に反しないか,と批判している。同新聞記事では更に2面の大半を割いて,熱帯林伐採後の用途としてのアブラヤシの大規模農園即ちパーム油生産農園への変化に言及し,合わせてパーム油認証基準をとり上げている。
世界で最も消費量の多い植物油脂としてのパーム油(万能的で安価な食用油脂)の需要が,アブラヤシの大量かつ年複数回収穫可能な高生産性等から,急激に既存の森林の大量伐採とパーム油用農園への転換を押し進めた。そこで,JOCはパーム油を選手村用食材として用いる調達基準として「持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)」の認証品を使うことを推奨した。しかし,その基準は「可能な限り優先的に調達する」努力目標にとどまったと批判している。
もっともその批判記事はやや中途半端な感も拭いえない。
恐らく取材班は調達基準を満たさない多数の事例を把握していたはずであろうし,何故JOCが調達基準を努力目標に止めたかの背景も取材できているはずである(追及記事が不十分なのは,単に紙面の物理的制約だけでなく,オリンピック礼賛の風潮がそれとなく横槍を入れたのかとも思われる)。
但し,2面下段の横組タタミ記事で,型枠合成材としてインドネシアやマレーシアの熱帯林伐採が「森林破壊につながる」と環境NGOから指摘を受けた組織委員会が,平成18年10月〜11月に現地調査をしたうえ,環境破壊などにつながる問題はなかったと報告した、しかしその現地調査の対象場所や対象企業はNGOの指摘とは無関係に組織委員会が選んでおり,しかも企業名などの固有名詞は黒塗りだったと,明確に非難している。
報道とは,かくあるべきである。
4 現代のオリンピックとは,建前としての理念と主催者の本音とが著しく乖離している。建前は大切である。また,理念と現実との一定の二重性を否定するものではない。しかし、殊更にその二重性を増幅するのは,時には犯罪的ですらある(例えば公官庁による障害者雇用の欺瞞性を想起せよ)。
令和のオリンピックはパラリンピックを隠れ簑として組合せることによって,障害者に対する健常者の日常性の中の無意識的な若干の優越感とシンパシーを利用しようとしている。また,スポーツ競技に対する観衆の熱狂と民族意識をテコに,現実の政治的矛盾と社会的破綻を覆い隠そうとしている。理念なき大衆迎合である。
そして何より忘れてはならないのが,オリンピック開催のために高騰し続ける経費である。国や都の予算がどの様に変貌していったかの記憶もなくなったが,実質予算(他の経常支出である一般予算に忍び込ませた経費を含めて)は,オリンピック招致当初の形式予算を疾に兆を超えて倍以上に膨らんでいるはずである。しかも,この予算操作は関係者によって故意に行われている部分が少なくないであろうことは,容易に推測される。
この莫大な金額については,障害者用であれ,スポーツ振興の為であれ,持続可能な別の有益な使い道がいくらでもあったであろうに,との思いを禁じえないのである。
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