相続税 改正・増税 の概要について

最近,近時予定されている相続税法制の改正についてお話する機会があった。今回の改正は,主に遺産分割協議や遺言の作成・執行等に従事する弁護士にとっても,大きな影響を与えるものとなっている。以下,その骨子をまとめたものを紹介する。
 
平成25年3月29日,平成25年度税制改正法案である「所得税法等の一部を改正する法律案」及び「地方税法の一部を改正する法律案」が成立した。今般の税制改正では,相続税の計算に関わる重要な部分で,主に増税方向の改正がなされている。
相続税の計算は,概ね,①まず財産を取得した人毎に,課税価格を計算する,②各人の課税価格を合計して課税価格の合計額を計算する,③各相続人の課税価格の合計額から基礎控除額を差し引いて,課税される遺産の総額を計算する(課税価格の合計額-基礎控除額=課税遺産総額。法定相続人の数は相続の放棄をした人がいてもその放棄がなかったものとした場合の相続人の数をいう),④上記で計算した課税遺産総額を,各法定相続人が民法に定める法定相続分に従って取得したものとして,各法定相続人の取得金額を計算する(課税遺産総額×各法定相続人の法定相続分=法定相続分に応じる各法定相続人の取得金額),⑤上記で計算した各法定相続人毎の取得金額に税率を乗じて相続税の総額の基となる税額を算出する(法定相続分に応ずる各法定相続人の取得金額 × 税率 = 算出税額),⑥上記で計算した各法定相続人毎の算出税額を合計して相続税の総額を計算する,という手順を辿る。
1 増税の方向で改正されたのは,以下の2点である。
(1)まず1つ目は,2億円を超え3億円以下の金額に対する税率が40%から4  5%に,6億円を超える金額に対する税率が50%から55%に,という高額な部分に対する増税である。
この点,法定相続分に応じる各法定相続人の取得金額は,基礎控除等がなされた後に定められるので,増税税率の適用を受ける方はさほど多くないかもしれない。

(2)2つめは基礎控除額の減額による増税であり,相続税の課税額が発生するラインが下がることになる。こちらは,都内にお住まいの方等は,不動産の価格等が相対的に高いので,改正による影響を受ける方が多いと思われる。ある記事では,地価の高い首都圏では相続税を課税される人が20%を超えるとの見通しになるということであり,こちらの増税は多くの方に影響のある,極めて大きな改正となる。
現行の基礎控除 5000万円+法定相続人の数×1000万円
改正後     3000万円+法定相続人の数× 600万円(約40%縮小)
2 ここで紹介する3つめの改正は,小規模宅地の特例制度の改正であり,これは減税方向での改正となる。
小規模宅地の特例とは,相続税の支払いのために自宅や自営店舗等を手放さないですむように,一定の条件の宅地について大幅な評価減を受けられる制度である。             従前の法令であれば,例えば夫と一緒に住んでいた自宅を妻が相続する場合,240㎡までは80%の減税がなされるなど,極めて重要な特例となっていた。
この小規模宅地の特例については,以下の点で重要な改正がなされる。
ア 限度面積の拡大                             現行の240㎡から330㎡に拡大され,この特例が適用される限度面積が拡大される。平成27年1月1日以降の相続に適用。
イ 二世帯住宅の適用の拡大                         従来は,構造上,完全に区分されている二世帯住宅は,行き来ができないと同居していないものとされ,原則として特定居住用宅地等の適用ができなかったが,改正後は一棟の建物に被相続人の配偶者または親族が居住している場合には特例が適用される。平成26年1月1日以降の相続に適用。
ウ 老人ホームに入居中の場合の適用の拡大                  従来は,被相続人が終身利用による有料老人ホームに入居していた場合,自宅の敷地について、特定居住用宅地等としての特例が適用できなかったが,改正後は,被相続人が元々居住していた土地は,下記の一定の事由により相続時 に居住していなかった場合でも特例が適用される。平成26年1月1日以降の相続に適用。
3 以上のような改正がなされることが確実になっているが,改正法は,基本的に平成27年1月1日以降の相続に適用されることとなる予定である。今般の改正,特に上記2項の改正点は,大きな影響があるものと思われるので,生前からの備えが必要である。