超小型原発(4S炉)について
- 2012.04.11
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1 現在日本に設置されている原発が、その安全性、経済性及び安全保障等において、否定的評価しかもちえない商品であることは、まず合理的知見であるといってよいと思う。
しかし、他方で再生可能(自然)エネルギーによる発電では、原発に代って現在の電力需要を賄えないとの議論もなされている。ところが、この議論もまた相当怪しいのである。一定程度の節電(少なくとも不要不急な、あるいは過剰な電力消費をカットする)を前提として、日本の全ての原発を停止しても、当初は水・火力発電を主体にして、やがて基本的に再生可能エネルギーをもってして、すぐにも現在時で原子力発電に代る必要発電量の実質的確保は充分可能との研究もある。なお、そこでは節電=発電との当然の原理的方法での思考の必要性が指摘されている。
2 ところで、とりあえず原発全廃の可否の問題を措くとして、新4S炉(Super Safe Small and Simple)という超小型原子炉の可能性について触れておきたい。
超小型原子炉の特許については、新4S炉として、元電力中央研究所理事(名誉顧問)の服部禎男博士が、米国で2001年に出願し、2005年にUSパテントを取得している。
標準出力は1万KW(最大2万KW)程度で、現在設置されている100万KW超の原発に較べはるかに小出力である。外容も、炉心径90cm、炉心高200cm、燃料棒外径1cmで、原子炉容器径150cm、原子炉容器高300cm位という超小型である。なお、後述する中性子の環状反射体の幅は50cmである。
新4S炉が安全だというのは、①自然負荷追従性(物理的本質安全)と②金属燃料の使用ということかららしい。
3 「自然負荷追従性」について、服部博士によれば「(超小型の)細身の炉心であるため、冷却剤の大きな負の温係数による強いネガティブフィードバックにより、自然負荷追従特性が得られました。
冷却温度の上昇とともに炉心周囲への中性子漏洩が増加し、おのずから出力が低下し、逆に電気受容の増加で蒸気タービンの蒸気流が増せば、炉心冷却剤ナトリウムの温度が低下し、ナトリウム密度は増加するために中性子漏洩が少なくなり、ゆっくり出力が上昇します。」と説明される。
従って面倒な制御棒操作は必要なくなるとのことである。
以上は、原子炉における核分裂の物理的特性によって説明される。即ち、原発燃料は、ある程度濃縮されたウラン238(原則核分裂しない)とウラン235(核分裂する)とで構成されるところ、ウラン235に中性子を丁度よい速度でぶつけると微量の熱エネルギーと中性子2個あまりが発生し、うち1個が次のウラン235にうまく作用し、核分裂の連鎖反応となるが、一方でウラン238は中性子を共鳴吸収する、ところが温度が急上昇するとウラン238の熱振動が活発になって、中性子の共鳴吸収が激増し、結局高熱化すると発生した中性子がウラン238にどんどん吸収されてしまい、核分裂の連鎖反応は停止してしまう、そして、細身の炉心では、それらの反応が即時的機敏に現れるということらしい。
4 また、「金属燃料」というのは、ウランとジルコニウム10%の合金であって、従来の主としてウラン酸化物を焼結したセラミック燃料に較べ、イ)高い熱伝導度(セラミックの約10倍)と ロ)出力増減に対する耐用性が高い、とされる。新4S炉の燃料棒では約30年間燃料棒の交換や燃料の位置替えが不要という。ここでも燃料棒交換という従来の原子炉運転操作は必要なくなる(環状反射体という幅約50cmの中性子反射板が炉心を環状に囲み、これを約30年間かけて(年間50mm位づつ)極めてゆっくりと自動的に移動させていくだけという)。
新4S炉の金属燃料では、熱伝導性が高いため、全出力運転時でも燃料ピンの中心温度は約800℃(従来のセラミック燃料炉の燃料中心温度は約2600℃)で、ウラン238による中性子共鳴吸収も少ない。しかも900℃あたりで内包ガスの膨張圧力と燃料金属の軟化による急膨張で、燃料密度が低下し、出力が急減し、臨界喪失となるという、燃料自体の安全特性があるとのことである。
5 新4S炉は超小型でオペレーション不要なので、原子炉自体をカプセル化できる、その結果、据付作業は必要だが、整備された工場での大量生産も可能となり、運転要員も原則殆んど不要なのでインサイダーテロの危険も極めて少ない、そのうえ、廃棄物として残るプルトニウムは、キュリウム等分離不能な不純物を含む特殊なものであって、原爆の製造には役立たないプルトニウムでしかない、という。ちなみに日本のプルトニウム保有量は約45トン(プルトニウム型原爆約4000発分)といわれる。小出力なので、長距離の高圧送電網もいらない。要するに、独立型分散電源であって、いわば地産地消型の原発だということである。
新4S炉は、海水を真水化する電源としてもアラブ産油国などからも期待されている。もっとも、単に小型軽量というだけでなく、原子炉運転要員が殆ど不要になることから、軍事的利用にも適し、例えば原子力潜水艦などの動力機関としても注目されている。但し、問題がないわけではない(そもそも日本では原子力技術の軍事利用は禁止されている)。
要するに、原発一般のような巨大複雑系の装置の宿命として、人為的あるいは機械的ミスが不可避な危険として存在しているところを、新4S炉ではできる限り小型化、シンプル化することによってそれらの危険を極小化していこうという技術思考に基づいているのである。人間の開発使用する技術には一定の過誤はやむえないとして、事故の確率についてはある程度の見切がなければ新たな技術の実用化は不可能であるかの発言をする科学者の方もいるようであるが、こと原発のような一たん事故発生となったときの被害の甚大性に鑑みれば、やはり理論と実践のかかわり合いについては、更に慎重でなければなるまい。
以上の新4S炉の安全性、利便性等にもかかわらず、核廃棄物の安全処理については、ここでも抜本的には何ら解決をみていないということを、なお充分留意しなければならない。
もちろん、フクシマ事故は、原子力発電と倫理性の問題、あるいは利便性と人間存在等々の根源的な問題提起をしていることを忘れてはならない。
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