ソーシャルレンディング(maneoマーケット・クラウドリース)の事案で勝訴判決を獲得(消費者法ニュース2024年7月号に掲載)

少し前の事案ですが、ソーシャルレンディング(maneoマーケット・クラウドリース)の事案を山口諒弁護士と一緒に担当し、勝訴判決を獲得しましたので御報告します。また、その判決の記事が消費者法ニュース2024年7月号に掲載されていますので、併せてご紹介します。

この事案は、ファンド型(貸付型ファンド)のソーシャルレンディングで、販売業者がmaneoマーケット株式会社(営業者株式会社CrowdLease)の事案です。被告はmaneoマーケット株式会社とその代表者で、maneoマーケット株式会社の説明義務違反とその代表者の任務懈怠を認めて、投資家(原告)の請求を認容しました(過失相殺2割)。

説明義務違反を認めた判断は東京高裁でも維持されており、現在、被告からの上告手続中ですが、ソーシャルレンディングの事案にかかわらず、信義則上の説明義務について、正しく認定した事案として意義があると思います。以下は、消費者法ニュースに寄稿した内容を簡略化したものですが、ご興味がおありの方はご参照いただければと思います。よろしくお願いします。

 

第1 事案の概要等

いわゆるソーシャルレンディングの取引であり、maneoマーケット株式会社(以下「maneo社」という。)のプラットフォームで販売していた匿名組合契約のうち、営業者が株式会社CrowdLease(以下「CL社」という。)の事案です。maneo社については、複数のファンドについて訴訟(集団訴訟を含む)が係属していましたが、CL社については、他のファンドのように、営業者(代表者)の関連会社に資金を流用していたというような分かり易い事情はなく、営業者がいずれも債務超過等で、maneo社が新たなファンド組成をストップしたことにより償還がなされなくなったという経緯がありました。

 

第2 地裁判決(争点と判示)

1 maneo社の責任(説明義務違反、不法行為責任)

地裁判決は以下のとおり判示し、maneo社の説明義務違反を認めました。

「⑴ア 前記認定事実⑶アによれば、被告会社がウェブサイト上に掲載していた内容は、被告会社が借入れ申込者である最終貸付先事業者の財務諸表等を含む資料を受領してその財務状況等を審査し、当該審査したもののみが募集開始となっていること、投資家の出資金元本の保全のため、安全性を最優先に審査していることなどを示すものなどとなっている。また、前記認定事実⑶イのとおり、被告会社は、本件募集画面においても、「投資家の皆様に安心して投資して頂く為に精査を重ね、安全性を十分に考慮した取り組みを心がけることはもちろん」(別紙4No9)などと記載していた。このように、被告会社は、そのウェブサイト上で、本件最終貸付先事業者の財務諸表等に基づいて慎重な審査を行い、その審査を通過したもののみを取り扱っているように読める記載を行い、取り扱うファンドの安全性を強調した記載をしていた。

他方で、前記認定事実⑶イのとおり、被告会社は、本件募集画面における本件各匿名組合契約に係るファンドの説明では、本件最終貸付先事業者の財務状況について特段の言及をしていない。かえって、本件最終貸付先事業者について、「堅実な経営を続けており、安全な投資先です。」、「これまでも何度も取引実績があり、返済は期日に滞ることなく履行されています。」などと記載されていたものもあった。

これらの記載内容は、それを閲読した投資家に対して、被告会社が募集を開始したファンドについては、被告会社において最終貸付先事業者の財務諸表等の資料を受領して審査をしており、その結果、最終貸付先事業者の財務状況、支払能力にも特段の問題のないことが確認されていると信じさせるに十分なものといえる。

しかしながら、前記認定事実⑹のとおり、実際には、被告会社が募集を開始したファンドに係る本件最終貸付先事業者はいずれも債務超過に陥っていたものであり、また、本件業務改善命令前に募集を開始した本件匿名組合契約9、11、12に係るファンドについては、その審査に際して財務諸表等を徴求することもしていなかったものであったことが認められる。

したがって、被告会社のウェブサイト上での上記の記載内容は、本件最終貸付先事業者の財務状況、支払能力について投資家に誤信させる表示を行ったものであるということができる。

イ 被告会社は、第二種金融商品取引業者であり、・・・のとおり、本件各匿名組合契約を含むソーシャルレンディングに係る出資勧誘は、金商法の規制を受け、被告会社は、金融商品取引契約の締結又はその勧誘に関して、虚偽の表示をし、又は重要な事項につき誤解を生ぜしめるべき表示をする行為をすることが禁止される(同法38条9号、金融商品取引業等に関する内閣府令117条1項2号)。・・・(中略)・・そうすると、本件各匿名契約において本件最終貸付先事業者の財務状況、支払能力は、出資金元本の欠損が生ずるか否かに関して極めて重要な要素であるということができる。したがって、前記アで述べたとおり、被告会社が本件最終貸付先事業者の財務状況、支払能力について投資家に誤信させる表示を行ったことは、「重要な事項につき誤解を生ぜしめるべき表示をする行為」として金商法38条9号に違反するものであるということができる。  ・・中略・・

ウ 金商法は私法上の注意義務を定めたものではないものの、金商法1条は投資者の保護に資することを目的の一つに掲げている。また、本件規則は二種業協会による自主規制はあるものの、二種業協会は金商法上の認定金融商品取引業協会であり、投資者の保護に資する業務を行い、投資者の保護の促進に勤めなければならないとされ(78条、78条の2第1項)、本件規則も投資者の保護を目的の一つに掲げている(前記認定事実⑴ウ)。

以上の点を踏まえると、被告会社は、本件各匿名組合契約に係るファンドの勧誘に際し、本件最終貸付先事業者の財務諸表等に基づいて慎重な審査を行っているかのように説明して取り扱うファンドの安全性を強調するのであれば、投資家を誤解させ判断を誤らせることのないように、本件最終貸付先事業者の財務状況が債務超過の状態であったことについても説明すべき注意義務があり、それは、投資家である原告との関係においても存在したものと認められる。そして、本件最終貸付先事業者の財務状況に関する前記アの説明は、このような注意義務に反すると認められる。」

 

2 元代表者の責任(任務懈怠責任、会社法429条1項)

判決は、「本件各匿名組合契約に係る勧誘の当時、被告会社においては、本件業務改善命令の前後を通じて、審査及び説明の方法は担当者個人の裁量に委ねられていたのであり、投資家に対する説明義務を履行するために必要な社内の体制は整備されていなかったことが認められる。」などと判示して、元代表者の責任を認めました。

 

3 過失相殺

本件各匿名組合契約について、一定の元本毀損リスクがあり、最終貸付先事業者が匿名であるためにそのリスクの程度について判断が難しい投資商品であることや、最終貸付先事業者がその経営状態等の理由により通常の金融機関からの借入が困難な事業者である可能性があること、最終貸付先事業者が支払を行わない場合に担保の実行等により回収することが難しいこともあり得ることなどは認識し得たなどとして、2割の過失相殺をしました。

 

第3 高裁判決(原審維持)

東京高裁令和6年1月24日は、主に上記「1 maneo社の責任(説明義務違反、不法行為責任)」の争点について、「契約の一方当事者が、当該契約の締結に先立ち、信義則上の説明義務に違反して、当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場合には、上記一方当事者は、相手方が当該契約を締結したことにより被った損害について、不法行為による損害賠償責任を負うと解される(最高裁平成20年(受)第1940号同23年4月22日第二小法廷判決・民集65巻3号1405頁参照)」などと最判を引用するなどして原審の判示を補足し、原審の結論を維持しました。

 

第4 小括

いわゆるソーシャルレンディング(貸付型ファンド)においては、従前、投資家に対して借り手を特定できる情報を提供すると、当該投資家が貸金業を営んでいることにならないかという懸念から、借り手を具体的に開示せず(匿名化)、かつ、複数の借り手に融資するスキーム(複数化)による運営が行われていました。しかし、このことを一部の業者が悪用して投資家に被害を生じさせる事案が多発したことが、その後の規則改正(平成30年1月1日施行「事業型ファンドの私募の取り扱い等に関する規則」、・令和元年5月23日「貸付型ファンドに関するQ&A」)や、法改正(金商法第29条の2、第40条の3の3、第40条の3の4、第43条の5関係)に繋がることとなりました。

本事案は、信義則に基づく説明義務の趣旨を正しく理解し、最終貸付先事業者の債務超過(経営状態)という投資家の投資判断にとって重要な事実に着目して、第二種金融商品取引業者であった相手方の説明義務違反を認め、さらに元代表者の任務懈怠責任を認めた事例として、意義があると考えています。                      以上