医療事故センターニュース 判決速報に掲載されました

私が担当したさいたま地判平成25年12月26日について,概要を解説した原稿が,医療事故センターが発行する「センターニュース」の平成26年3月1日号に掲載されました。
以下がその原稿の概要です(長いので若干短くしています。)。
 
糖尿病に罹患している患者が低血糖症で入院することになった際の,定期的な血糖値測定及びインスリン投与を怠った過失があるなどとして,主治医及び病院の責任を認めた事例
島 幸明(第二東京弁護士会)
さいたま地方裁判所平成24年(ワ)第1017号
判決日:平成25年12月26日(1審確定)
1 概要
本件は,糖尿病(2型)に罹患し,血糖値の自己測定及びインスリン注射による治療をしていた故人(患者)が,平成22年2月20日,低血糖による昏睡により被告病院(脳神経外科病院)に搬送され,主治医である被告医師の判断により入院することになったところ,入院中に行うべき定期的な血糖値測定及びインスリン注射等を怠り,その後DKA(糖尿病性ケトアシドーシス)の発症がみられたにもかわらず,血糖値が1000mg/dl以上になるまで放置し,故人を6日後に死亡させたという事案である。
2 経過
平成22年2月20日午後1時30分 低血糖症で搬送(脳梗塞が疑われたため,脳神経外科である被告病院に搬送)
同日午後2時30分 意識回復
同日午後4時    血糖値117
その後,血糖値測定及びインスリン注射を指示・実行せず,22日より嘔吐等の症状。
平成22年2月24日午前9時 昏睡,血糖値1000mg/dl以上
平成22年2月26日午前1時5分 死亡
平成23年9月15日 受任
平成24年4月23日 提訴
平成25年12月26日 判決,確定
3 争点
(1)被告らの過失
① 定期的な血糖値測定及び適切なインスリン投与を行うべき注意義務があったのにこれを怠った過失があったか。
② 平成22年2月22日以降,DKA(糖尿病性ケトアシドーシス)の発症を疑わせる徴表があったのに,なお血糖値測定及びインスリン投与を怠った過失があったか。
(2)損害(逸失利益の算定)
4 判決
(1)判決では,上記①の過失については,「インスリンの投与を受けている糖尿病患者であり,しかも,低血糖のためブドウ糖液の投与を受けたばかりである患者を被告病院に入院させるにあたっては,血糖値を把握し適切に血糖コントロールを続けるため,遅くとも2月21日から少なくとも1日1,2回の血糖値測定を行うべき注意義務を被告医師は負っていたと認められる。そして,当該義務は,糖尿病の専門家に限らず広く医師一般に課される義務と考えられる」とし,上記②の過失については,22日午後6時の「時点で血糖値を測定していれば高血糖と測定され,すぐにインスリンの投与を再開すべき状態であったと認められる。したがって,被告医師には,同日午後6時の段階でインスリンの投与を行うべき義務があったと認められる」として,2重の過失の存在及び死亡との因果関係を認め,不法行為に基づく損害賠償請求を認容した。
(2)損害については,故人は,死亡時は退職して無職であったものの,①年金支給分に係る逸失利益(14年の喪失期間)のほか,②就労の意欲等があったものとして労働能力喪失にかかる逸失利益(70歳以上の平均賃金。7年間の喪失期間)をいずれも認めた。
5 コメント                                被告病院の過失が認められたのは当然であるが,ご遺族の方々は①の過失に重点を置いていたので,これが認められて安心した。損害論についても,故人が持っていた多数の資格証書等を遺品から発見するなどして立証した結果,ある程度満足のいく認定がなされた。故人が帰って来ることはないが,本件によって糖尿病患者に対する一般の医師の方々による注意が僅かでも高まることがあれば何よりだと思っている。