ロシアの動向と中国について

1 ウクライナ紛争(というよりロシアによるウクライナ「侵略」)に関するプーチンの罪科については、その行為があまりに直接的、主導的であって、今更調査、検討など不要であろうが、米欧各国の対応については、少々苦言を呈しておきたい。

一言で云えば、米欧各国はロシアないしプーチンに対しあまりに及び腰なのだ。多分にロシアと国境を接する欧州各国でさえ、元ロシア圏の国のNATOへの加盟ないし加盟可能性の現実性によって、ロシアからの危険な軍事(的)行動などありえないとの安心感が、その底流にあろうかと思われる。しかし何より、ロシアとコトを構える事態の回避こそが、米欧各国(民)の最優先課題だからであろう。

 

2 殊に、米欧とも、追い詰められた(?)プーチンが、ウクライナの原子力発電所や施設に対する正面からの、というより秘密裏に、例えば第三者ゲリラを装う方法で、即ち犯人不明を前提に手を出してくるのではないかとの危惧があるからであろうか。

確かに、一旦狂い出した独裁者が、自国民のことよりも、また自身の利益や名誉のことよりも、全く感情的感覚にとらわれた行動に出ることはありえないわけではない。

しかし、米欧がそういう危惧を抱くことこそ、正にプーチンの思うツボなのかも知れない。

我々はなんと愚かな生物なのであろうか。

 

3 そこで一旦常識的な感覚から離れて、欧米各国の不安なり危惧をも忘れて、単にプーチンが勝利してウクライナを手中に収めた場合や、逆に追い詰められた場合のプーチンがウクライナからの撤退やその過程で原子力発電所の破壊等に及んだ時について、その影響や利害得失を考えてみよう。

(1)原発の安全運転

①プーチン勝利という結果はどのような事態を生むであろうか。当然のことながら、ロシアに隣接するか否かにかかわらず、第2、第3のウクライナ紛争が発生する可能性がある。その時期は、プーチン政権のほころびが具体化する可能性が高まった時であろう。ウクライナ侵略は、もともとプーチンの国内向けの政治的思惑の招いたものだからである。

②一方、ロシアは「ウクライナ原発」の運転について、完成された十全な技術までは保有していないと思われる。ヘタをするとチェルノブイリ事故の再来さえ懸念される。多分ロシアによるウクライナ原発の運転技術者の余程高額な報酬か強制的な招集が必要となろう。しかしそう簡単にはゆくまい。つまり、ロシアが勝利しても、原発事故が回避され、安全運転が保障されるとは限らない。

(2)原発の破壊

①逆に、ロシアが原発を破壊した時は、恐らくロシアは世界中(北朝鮮などロシア依存の国々を除けば)から非難をあびよう。多分、ロシア国内からさえ、相当の異論、反論を受け、却ってプーチン政権の維持、存続に重大な支障をきたす恐れがあろう。もっとも、先日もプーチンは原発や核兵器について物騒な発言をしている。

とはいえ、正面きってのウクライナ原発の破壊は、さすがにプーチンの政治的思惑とは相容れないはずである。但し、プーチンが国内での権力闘争に敗れた場合は、プーチンの合理的判断は期待できない。

②それでも敢えてか、手違いによるかは別として、結果的にウクライナ原発が破壊されることは、ありうる事態なのである。沸騰してしまった人間の頭は制御不能となるであろう。

多分、ここまでくると、世界的に大多数の人間の覚悟の問題であろうか。ここでも人間の愚かさを越える知恵がほしい。

 

4 米欧各国が最も懸念することは、ウクライナ原発の破壊などではない。

(1)自由経済主義国家と統制経済主義国家との間の、全面的な争闘であろう。軍事的物理的な戦争に限らない。

但し、ここでは中国の対応が読めない。中国自体は正に統制経済を旨とする国ではあるが、同時にロシアとの覇権争いは当然に想定されているであろう。その場合の中露の経済関係が見えない。

(2)ウクライナ侵略の「失敗」にとどまらず、既にロシア経済自体が弱体化していることは、間違いない。一方、中国も、その専制体制や、多分不動産政策の失敗などから、日本のみならず、他国の資金は中国から逃げ出している。今後、当分中国の目はむしろ、内政に向いてゆくと思われる。

 

5 米欧が(日本を含め)反ロシアないし親ウクライナとして、ロシアの侵略行為に真正面から対立した場合、ロシア経済は相当疲弊するだろう。

(1)現在、日本はロシアによる極東開発に一定の協力を続けており、米欧各国もこれを容認している(但しロシアの横暴が一応の限界(例えば原発攻撃など)を越えなければの話である)。

(2)ロシアから欧州への原油、天然ガス等の輸出も、現在のところ事実上ないし物理的に一応、停止されている(但し停止を振切る坂道も多い)。

(3)欧州等からロシアへの輸出も、直接的には止まっており、ロシアは国際的な外貨決済も不完全である。

(4)ロシアにとってモンゴルや北朝鮮などの新露国(場合によってはベルギーも)を介しての物や資金の往来も、量的にも質的にも不充分であろう。

 

6 そこで中国がどこまで本腰を入れてロシア支援に乗り出すかであろうが、果たしてどうだろうか。

(1)恐らく、中国としてはまず自国経済の不安が解消ないし大幅に減少する前提が必要であろう。

(2)また、中国としては自由経済主義国(社会)との(消耗な)確執は回避したいところだが、その為には今のところロシアとの同盟が有益であるものの、ロシア自体の国内外での動向と評価が流動的ないし危機的である。

(3)ただ、米欧は、歴史的に中国とは必ずしも親和的ではない。

これは多分その底流に文化的、歴史的な背景があると思われるので、その対応の速やかな変化は期待できないであろう。

(4)相当大胆な予測になるが、ロシアの浮上はロシアが宇宙科学などの実証的、実利的知見を中国に提供する用意があるかどうかになろうか。中国独自の知見がそれなりに積み上がっているので、北朝鮮とは全く違う。

 

7 以上要するに、劣化したとはいえ、世界史にとって火薬庫のひとつになりかねないロシアの動向については、中国を見据えつつ、やはり目が離せないのである。