商品先物取引についての不招請勧誘禁止撤廃に反対する意見書 について

私が事務局長を務める東京投資被害弁護士研究会で,「商品先物取引についての不招請勧誘禁止撤廃に反対する意見書」を,8月13日付けで執行しました。この意見書は,私と茨木代表幹事のほか,この種被害に取り組んできた27名の弁護士の署名・捺印付で作成されています。
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商品先物取引については,平成23年1月に施行された商品先物取引法第214条9号において,いわゆる不招請勧誘(希望しない顧客に対する電話及び訪問による勧誘)を禁止しています。この不招請勧誘の禁止は,商品先物被害の撲滅に向けて尽力してきた,多くの関係者の努力の賜物といえるものです。

しかし,平成25年6月19日,衆議院経済産業委員会において,証券・金融・商品を一括的に取り扱う総合取引所での円滑な運営のための法整備に関する議論の中で,「商品先物業者の負担を避けるために,不招請勧誘禁止を撤廃すべきではないか」との委員の質問に対し,金融担当副大臣が,「商品先物取引について不招請勧誘禁止を解除する方向で推進していく」との答弁を行い,不招請勧誘の禁止撤廃に向けての動きが活発化してきています。この答弁は,総合取引所において商品先物業者に対しても監督権限を有する金融庁が,商品先物取引の法規制について,不招請勧誘禁止を撤廃することを検討していることを示すものですが,以下で述べる平成24年2月から6月までに開催された産業構造審議会商品先物取引分科会での取りまとめに反するものであり,見過ごすことのできないものです。
これらの不招請勧誘禁止撤廃に関する意見の論拠は,
① 平成23年1月より導入された不招請勧誘の禁止が,現在の国内商品先物取引の低迷の大きな要因となっている。国内商品先物取引に関する苦情件数の減少が現在も続いているのであるから,不招請勧誘規制を見直すべきである,
② 店頭取引でそもそも価格形成がどうなっているかわからないものについては不招請勧誘の禁止は必要だが,透明・公正な取引所取引については,不招請勧誘禁止は不要である,
③ 証券・金融と商品を一体として取り扱う総合的な取引所において,証券・金融デリバティブ取引の取引所取引については不招請勧誘が禁止されていない一方で,商品デリバティブだけが取引所取引について不招請勧誘禁止されているのはバランスを欠く,
などというものですが,これに対しては,日本弁護士連合会が,2012年4月11日付けで「商品先物取引について不招請勧誘規制の維持を求める意見書」を提出しています。
この意見は,                                第1に,この不招請勧誘規制の導入は,これまでの悪質かつ深刻な商品先物取引被害の状況に鑑み,被害件数自体が減少しているとはいっても,相当数の悪質な被害がなお存在する限り,不招請勧誘規制を行ってその被害の撲滅を図る必要があるという趣旨の下に行われたものであり,商品先物取引に関する苦情件数が減少していることは,直ちに,商品先物取引についての不招請勧誘規制を見直す根拠とはならないこと,
第2に,国内商品先物取引に不招請勧誘規制が導入されるに至ったのは,商品先物取引業者の悪質な営業行為により深刻かつ悲惨な被害が生じていたからであり,取引所取引の透明・公正性とは別の観点である商品先物取引業者の営業姿勢の問題によるものであることから,取引所取引が透明・公正であるから国内商品先物取引については不招請勧誘規制が不要であるとの意見も,これまでの日本の国内商品先物取引の実情を踏まえると,到底受け入れることができないこと,
第3に,取引所取引に関する証券・金融デリバティブと商品デリバティブとのバランス論についても,これまでの国内商品先物取引における悪質かつ深刻な被害の実情に鑑みれば,このような商品先物取引業者の悪質な営業行為がなくなったといえる状況が確認されない限り,到底受け入れられるものではない。
第4に,外国為替証拠金取引においては,不招請勧誘が禁止された以降に,取引高が増大しているわけであり,不招請勧誘規制の存在が市場の活性化を阻害するとは言えないのであるから,不招請勧誘規制の存在が商品市場の活性化を阻害しているとは考えられないこと,
第5に,当連合会が調査したところでは,不招請勧誘規制が導入された平成23年1月以降も,不招請勧誘規制を潜脱して専門知識のない一般消費者を取引に引きずり込んで損害を被らせた事例が何件も判明しているのであり,かつてより被害件数が減少しているからと言って,商品先物取引業者が未だに従来と同様の手法・姿勢で営業を行っていると考えられること,
などの理由から,商品先物取引について不招請勧誘規制の維持を求めていますが,その意見は極めて妥当です。
そしてその結果,産業構造審議会商品先物取引分科会の平成24年8月21日付けの報告書では,「商品先物取引に係る苦情等の件数は着実に減少しており,不招請勧誘の禁止を含めた勧誘規制に関する累次の法律改正や関係者の法令遵守の取り組みが一定の効果をあげていると考えられる。」などの形での取りまとめがなされ,商品先物取引に関する不招請勧誘規制を維持することが確認されていたところです。
総合取引所の下での商品先物取引の不招請勧誘規制の問題は平成24年の産業構造審議会商品先物取引分科会において,各界の識者がさまざまな角度で議論をし,その結果,上記報告書のような取りまとめとなったわけであり,それからわずか1年後の現時点においてこれを変更しなければならない事情は何も生じていません。    
この点商品先物取引については,その市場規模縮小と事業者数減少に伴い,苦情件数の絶対数は以前よりは相対的に減少しているものの,勧誘態様の悪質さには何ら変わりません。例えば,金の現物を購入しようとして連絡してきた顧客に金の商品先物取引を行わせたり,不招請勧誘禁止の例外とされるいわゆる「スマートCX」の取引を勧誘した後に(一般の)商品先物取引を行わせたりするなど,被害事案の悪質さは何ら異なるところがありません。
しかし,苦情件数の減少が続いているから,不招請勧誘規制を見直すべきであるというのは正に本末転倒であり,これまで脈々と続いてきた商品先物取引の被害実態を顧みないものというほかありません。以上のとおりですから,当研究会としては,総合取引所の下でも商品先物取引の不招請勧誘禁止は,消費者保護の観点から絶対に維持すべきものであり,その禁止撤廃には強く反対するものです。