「規範もどき」とバッシング(その2)

前回の投稿では、人には、社会規範に違反したと感じると自動的に怒りなどの情動を生じさせる心的傾向があること、そして、SNS全盛の昨今においては、社会規範(※)とまでは言えない「規範もどき」にまで大々的な反応が生じているように思われることを書きました。
キーワードは、「社会規範」、「自動的」、「SNS」、「規範もどき」といったところなのですが、もう少し掘り下げて考察してみたいと思います。

※社会規範:社会や集団内で共有され、同調が求められる規範

「ベビースキーマ」という言葉をご存じの方も多いのではないでしょうか。                                                                 動物行動学者であるコンラート・ローレンツは、1943年の論文で、人には、赤ちゃんの身体的特徴(※)を見ると自動的に「かわいい」と感じる本能が備わっていること、しかも、実際に赤ちゃんを見た場合だけでなく、赤ちゃんの身体的特徴が表れたイラストやオブジェなどを見てもそのような反応が生じることを発表しました。円や楕円で書いた抽象的な図ですら同様の反応が生じるのですが、このように、それを見た人に「かわいい」という反応を自動的に生じさせる赤ちゃんの身体的特徴が「ベビースキーマ」です。そして、このようなベビースキーマに対して自動的に生じる情動が、幼い子どもを保護したり養育したりする行動に繋がっていると考えられています。                         

※体に対して頭の割合が大きい、額が突きだしている、目が大きくて丸い、頬がふっくらしている、手足が短いなど。

これと同じことが、「社会規範」についても生じるのではないかと考えられます。                                                            すなわち、集団を形成することによって生存競争に勝ち抜いてきた人類の脳には、構成員が守るべき社会規範の違反に対して自動的に反応する心的システムが備わっており、規範違反に接すると自動的に怒りや嫌悪感等の情動が生じ、それが、違反者を排除したり、糾弾したりといった行動に繋がっているのではないかということです。このような心的システムの存在は、強い集団を作る上でかなり有効だと思うので、そのようなシステムを備えた人々が生存競争に勝ち抜いたとしても不思議ではないように思われます(素人が進化心理学的な話をすると安っぽくなってしまいますが、ご容赦ください。)。

そして、この社会規範違反に対する自動反応は、本物の赤ちゃんでなくても反応が生じるベビースキーマと同様、社会規範っぽいものに対しても生じるのではないかと思われます。これが「規範もどき」の正体ということになりますが、要は、社会規範に関しても「社会規範スキーマ」というべきものが存在するのではないかというわけです。

では、この「社会規範スキーマ」において、ベビースキーマでいうところの“大きい頭”や“大きい目”といった特徴は、何なのでしょうか。これが次の関心事項となるわけですが、これがある程度つかめれば、企業等が炎上対策をする一助になるのではないかという気がしています。

この点については、改めて考察したいと思います。