投資信託・投資法人法制の見直しに関するワーキング・グループ中間論点整理(案) の概要とポイント

投資信託・投資法人法制の見直しについて,平成24年7月3日にワーキンググループ(WG)の「中間論点整理」が公表されました。
http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/toushi/siryou/20120703/01.pdf
WGは,年末までに最終報告をする予定となっています。
以下,特に投資信託制度において,投資家側にとって重要と考えられる点を中心に,その概要とポイントを紹介します。
1 規制の柔軟化方向での見直し
国際的な規制の動向や経済社会の変化に応じた規制の柔軟化という観点から,①受益者書面決議制度の一部見直し(約款の重大な内容の変更や投資信託の併合を行う場合,書面決議が必要となるが,その手続の容易化),②同一投資信託における複数の報酬体系等の容認(信託報酬体系等は同一であることを要するとされ,その結果複数の投資信託の組成を余儀なくされる)等を検討すべきとしています。
2 一般投資家を念頭に置いた適切な商品供給の確保
一般投資家保護のための制度改善という観点から以下が検討されています。
(1) 運用報告書の改善等
運用報告書は大部となり,受益者が情報を取捨選択することが困難になるなどとして,重要事項を記載したものと詳細状況等を記載したもので二段階化し,後者は電子的手段の活用で足りることとするほか,記載事項についてもより分かり易い表示とすることを検討すべきなどとしています。
(2) トータルリターン把握のための定期的通知制度の導入
現在の取引残高報告書では各期の分配金等が記載されているに留まる上,実際に負担した信託報酬の総額はそもそも通知されていないことから,購入時点から現在までの期間全体における累積損益(トータルリターン)を受益者に通知する仕組みにつき,引き続き検討が必要としています。
(3) 販売手数料・信託報酬等に関する説明の充実
販売手数料等の投資家が負担する費用については,十分な説明がなされているとはいえないことから,投資家のコスト意識を醸成し競争の促進を期待する観点から,その説明の充実を図ることが適当であるとしています。
(4) 販売・勧誘時等におけるリスク等についての情報提供の充実
商品の複雑化・リスクの複合化が進む中で適切にリスク判断をするためには,商品のリスクをより分かりやすく情報提供する取組みが必要として,欧州における,投資信託の収益額(分配金込み)の過去5年の平均値からの変動率(標準偏差)を7段階に階級表示する取組み等を参考にすべきとしています。他方で,段階や階級を用いた表示は,簡便であるがゆえに誤解を招きやすいとか,投資家自身がいかなる性質のリスクを保有しているか認識するという面でのリテラシーの向上を阻害するおそれがあるとか,過去の変動率を基準に何らかの表示を行う場合その計測期間によって表示が大きく変わることから、計測期間の定め方や投資家への説明方法につき慎重な検討が必要であるなどとして,引き続き検討が必要としています。
(5)運用財産の内容についての制限(一定の類型のリスクに対する規制)
また商品の複雑化・リスクの複合が進行する中では,適合性の原則を踏まえた説明義務に係る負担が重くなっており,その説明内容も必ずしも十分でないとの懸念が指摘されているとして,勧誘規制だけでなくいわゆる商品(運用)規制により,当該リスクを一定限度にとどめることなどを検討すべきとしています。
他方で,「多様なニーズに応えるとの観点から,商品組成の自由度が過度に拘束されることは適当ではないとの意見もあった」。とか,「特定の投資信託商品の類型やスキームそのものに着目した規制も必ずしも適当ではない」とも記載されており,規制導入についても引き続き検討が必要としています。
3 総括
投資家保護の観点から重要と思われる点については,未だ導入の是非及び具体的事項が定まっていない事柄が多く,特に勧誘規制にとどまらない商品規制の導入として画期的と思われる3(5)については,業界側の強い反対もあり,最終報告に向けて どのような議論がなされるかが重要となります。
しかし,本中間論点整理についてはパブコメは実施されません。
この点,日弁連は平成24年6月15日付けで新たな商品規制を整備すべきとした意見書を公表しており(日弁連HP),投資家保護の観点からは,同様の意見が各方面から表明されることが望ましいと考えます。